日本サジェストペディア学会(JAS)の定例研究会で、数回にわけ、「パントマイムの授業への応用」というテーマで発表および実技を行った。以下に、その内容の一部をご報告させていただく。
1.「パントマイム作品」のVideoの使用
筆者の日本語の授業では、初級後半から中上級のクラスで、パントマイムの小品をVideoに収録したものを用いることがある。
使用法は様々だが、例えば初級の段階では、Videoを見ながら、そこに存在するもの、行われていることを学習者にナレーションさせる。登場人物の思い、感情、台詞を語らせる。中上級の段階では、それらに加えて、慣用表現、擬音語・擬態語、話言葉、待遇表現、関連語彙・関連表現等を扱う。トピックをもとにディスカションを行う等である。
パントマイム作品を使用する理由及び意義は以下の通りである。
・「パントマイム作品」の多くが、数分から十数分の完結した物語となっている。
これは映画やテレビ・ドラマに比べると、時間も短く、学習活動に割く時間もそれほどは要さないので、手軽に他の学習活動の合間に行うことが可能である。
・教師にマイム作品を創作し、演じる能力があれば、意図する自主教材を容易に、かつ安価に制作できる。
・「芸術性が高い」ことを前提に、ユーモアやウィットに富んでいる作品を選べば、(マイムに親しみがない学習者でも)作品そのものを楽しみながら、授業を受けることができる。
・マイムでは、その特性を生かして、日常を凝縮して表す(・現わす)ことが可能であり、また現実には起こり得ない(・存在しない)空想・幻想の世界をたった一人の演者が構築することも可能である。卑近な内容のものから、抽象的なもの、壮大かつ深遠なメッセージを含んだものまで自在に作品化が可能である。すなわち、授業で様々な内容のものを提供できることになり、多くの顕在的・潜在的情報が盛り込まれることで、時間が短くとも充実した内容のものを提供できる。
・声(台詞)を使用しないがゆえに、演者の動き・表情、状況等が雄弁に物語ることとなる。これは、演者(登場人物)の体験、感情、感覚、心情、思考、セリフ(決して声には出していないのだが!)、ストーリー展開、状況・場面等をナレーションさせるためには都合がよい。
・「物」は原則として使用しない(無対象の演技)ため、見ている者(学習者)の想像力・創造力を喚起する。と同時に、学習者の記憶とリソース(資源)が十二分に活用される。
・同じ場面・シーン・演技を授業で用いても、学習者の体験・経験・パーソナリティーの違い等により、様々に異なった回答が出てくることがある。これは、学習者から様々な発話(表現・情報等)を引き出したい際に有利であるし、教師と学習者、学習者同士におけるインターアクションを引き起こしやすくなる。
・学習者のレベル・言語運用能力に応じて、同じ素材(Video)を様々に活用できる。
・マイム作品はそれが芸術性の高いものであれば、学習者の感性を刺激するであろう。学習者の演技力やノン・バーバルな技能にかかわる部分にもよい影響があることと思う。
・作品を見ている時には、リラックスした中にも集中力が高まっていると考えられる。
※JASの研究会(複数回の発表)では、中村が日本語クラス(日本語学校および短期大学)で実際に使用したものの中から、1)中村/作・演の「玉」、2)中村/作・演(演者として参加)のアンサンブル作品「ペット自慢」、2)アメリカのマイミスト(トニー・モンタナロ氏)の小品「Nightmare」を選び、授業での使用例を簡単に紹介した。
自分でパントマイムの作品を創作し、演ずる場合には、シナリオを作成する。いつか、このシナリオをもとに「練習プリント」を作成し、授業で使用してみたいと考えている。
2. パントマイムの活用例
●「 語彙、文型、表現」を導入、意味・用法を伝える手段として
また、学習者に既習の表現を用いてナレーションさせる
以下は研究会で紹介したものである。
動詞の例:歩く/走る/(階段・梯子を)のぼる・おりる/食べる/飲む/
(本・新聞を)読む/(マッチ・ライターで火を)つける
形容詞の例:重い ⇔ 軽い/大きい ⇔ 小さい/長い ⇔ 短い/広い ⇔ 狭い/
暑い ⇔ 寒い/熱い ⇔ 冷たい /はやい ⇔ 遅い
文型(文法)、表現の例:追う ⇔ 追われる/足を踏む ⇔ 足を踏まれる/
景色を見ながら、歩く
(だんだん)大きく・小さくなる
大きくて重い、小さくて軽い ⇔ 大きいが(けれども)、
軽い、小さいが(けれども)、重い
〜と〜と、どちらが 形容詞(大きい)ですか?
連続した、または関連性のある動作の例:
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○エレベータに乗る → 上がる → 降りる
○花を摘む → 花の匂い・香りを嗅ぐ → いい匂い(よい香り)がする
○蝶々が飛んでいる → 蝶々が花にとまる → 蝶々を捕まえる → 蝶々を逃がす
→ 蝶々が飛んで行く(去る)
○梯子にのぼる → 少しずつ高くなる → だんだん恐くなる → 動けなくなる
○本を読んでいる → 内容がおもしろく、引き込まれる → 腹をかかえて
笑う・おかしすぎて涙が出る → 同感だとうなずく・「その通りだ」と
同意する → おかしい/疑問に思う → 考えさせられる・考え込む →
感動のあまり泣く→ 涙を誘う話に涙する(泣く)【様々な感情表現を含む】
○道を歩いている → 背後に(異様な)人の気配を感じる → 振り返るが
誰もいない、安堵する → また、歩き始める → やはり、「つけられている」
と感じる → 走り出す(逃げる)→ 物陰に隠れる
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※スキット風に、かつユーモアを交えて、(時に学習者をまきこんで)演じ、楽しみながら導入・説明が可能である。既習項目の場合は、学習者に場面・状況をナレーションさせる活動が行なえる。
あらかじめ計画・準備して導入・説明に用いるほか、学習者に単語の意味等を尋ねられた際の説明に用いることもケースにより可能である。授業で「直接法(ダイレクト・メソッド)」的な手法(媒介語による説明を避けたい)を用いていて、予期していない(回答をあらかじめ準備・用意していない)質問があった際に、口頭・文字だけでは説明が難しく、それを説明するためには絵・写真、模型・実物等を利用したいのだが、用意していないということがよくある。その際の説明にマイムを利用することがある。また、教材・教具を用いるよりもマイム(時に、ジェスチャー)の方が直接的でわかりやすい場合もある。
●「Story Telling(語り)」の際に、内容を伝える補助手段として
これは、一種の(視覚による)場面付きのストーリー/ダイアローグと言える。
例えば、授業のはじめに、ウォーミング・アップとして教師が短い話をするような際に用いる。
例:「今日、家を出てから学校に来るまで、何があったのか」を語る
※「語り」で使われている語彙・文型・表現のうち、授業ではまだ扱っていない未習のものがあっても、ストーリー全体を理解させるためにマイム演技が役立つ。或いは、もっと積極的に、非明示的に新しい学習項目を提示(Suggestion、示唆)する場合もある。
この「語り」に用いるマイム演技は初級レベルのみならず、中上級レベルの学習者に対しても、理解を深め、印象付け、「語られる事件」の臨場感を増すために用いることができる。
●学習活動(ゲーム)に用いる
マイムは一方的に教える側が用いるだけではなく、マイム及びそのエクササイズを授業でゲーム活動として採用できる。以下に研究会で紹介したものを記す。
1)職業あてクイズ
職業をマイムで演じ、他の者があてる。
2)「〜ています」(動作の継続)
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「〜ています」を用いて表現できる動作を行い、他の者がナレーションする。
ペア・ワークにしてもよい。
「何をしていますか/何をしているのですか」という質問を折り込む場合もある。
やや複雑なやり方として、1)AがBに質問(二人とも動いていない)し、Bが自由に「〜ています」と答え、2)Aはその動作・行為を行い、3)BがAに質問、Aは今やっている動きを止めずに、その動きとは異なる動作・行為を答え、4)Bは言われた動きをする。Aは動きを止める。5)一連をくり返す。
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3)伝言ゲーム
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言葉(音声)を用いるのではなく、マイムを用いる。簡単な形状の物を表現してもいいし、行為やストーリーを演じてもいい。言葉を用いる時は、他の者に聞かれないように二者間で声をひそめて行うが、マイムでは他の者に見られないように行う。
クラスの人数が多い場合には、グループ対抗にするとよい。グループのひとつが行っている時は、他のグループのメンバーは見ている。端まで伝わったら、最後に伝言を受けた者からはじめて、伝言の内容は何だったか(何だったと思うか)、動作しながら発言していく。
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4)位置に関する表現
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「鏡動き」。二者が相対し、鏡動きを行う。一方が主導して動き、もう一方は鏡に写っているように動く。その際、位置と動作の表現を口頭で述べる。鏡動きのため、左右は反対となる。例:右手を上げます。 ⇔ 左手を上げます。
このゲーム活動は、導入にも練習にも用いられる。
「ロボット/マネキン動き」。何段階(3〜5)かに分けて、身体の部分を動かす。分解動き行う。動きを指示する(動かす)方と(マネキン人形のように)なすがままになって、動かされる方とがある。何段階かにわけて動いたら、今度は記憶を頼りにレコード/オーディオ・テープを逆回転させるように、最後の動きから最初の動きまで通して動く。動く際には、位置と動作の表現を口頭で述べる。ポーズを決めるまでとそれを元に戻す時とでは、動作・方向・位置が逆になる。
例:左足を前に出して。 ⇔ 左足を後ろに下げて/元に戻して。
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5)私の一日
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数名でグループを作り、円を作る。皆は内側を向く。
「私の一日」と題し、日常の動作・行為を一人ひとつずつ、自分で考えたものを口頭で述べながら行う。該当する日本語を知らぬ場合、教師が教える。
全てが提示されたら、皆で時間的経過にそって順番を考え、決定した順番どおり
に各自が移動し、円を並べかえる。
時間の早いものからはじめて、提示者が行い、これを全員が復唱しながら演じていく。最初はひとつずつ、ゆっくりと行うが、一連の動きとそれを表す文を覚えたら、教師の手拍子を合図に、全てを連続して全員が同じものを行っていく。
次に、動作をずらす形で行う。
Aが最初の動作を口頭で述べながら行う。他の者は行わない。Aが2番目を行う。Aが動くと同時にBが1番目を行う。同時に、Aが3番目を、Bが2番目を、Cが一番目を行う。これを人数分だけ、各自行っている動作を口頭で述べつつ、最後の者が最後の動作・行為を終えるまで行う。
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