日本語教育に関するFAQ



Frequent Asked Question vol.4

Q: 学習者が「きって」を「きて」や「きいて」のように、「きっさてん」を
 「きさてん」のように発音してしまいます。原因は何でしょうか?

A:『促音(つまる音)』が正しく発音できていないのですね。

■ 促音(つまる音)のいろいろ

『促音』の調音法は後続する子音によって異なるため、その指導においては教師が
そのことを十分に理解している必要があります。また、促音拍も1拍分の長さを
持っている(全国共通語の場合)ということを学習者にぜひ身につけてもらわねば
なりません。

促音(つまる音)は [ p ], [ t ], [], [ ts ], [ k ], [ s ], [], [ h ], [] の無声子音の前に
現われ、このうち[ p ], [ t ], [ k ] は破裂(閉鎖)音で [ s ], [], [ h ], [] は摩擦音、
[ ts ], [] は破擦音(破裂と摩擦がほぼ同時に行われる)です。また、「あっ」や
「いたいっ」と言う場合のように声門閉鎖で行なう促音もあります。

例をあげて説明しましょう。便宜上、訓令式ローマ字(一部改変)も使います。

● 促音拍が無音となる場合

いっかい ikkai  がっき gakki  きって kitte  マッチ mattsi
いっつう ittsuu  らっぱ rappa


上記の例では、いずれも2拍目の促音の部分は、3拍目にある音節の無声子音
(閉鎖・破裂音または破擦音)を発音する口(音声器官)の構え(ただし、閉鎖
はあるが破裂はまだない)となっているために、息の流れがせき止められて無音の
状態となっています。つまり、3拍目の音節(さらに言うならその子音)を発音
するための準備・待機状態となっているわけです。そして、1拍分呼気を止めた後、
閉鎖が解かれて母音が発音されます。

「いっかい」では軟口蓋と奥舌で閉鎖が行われ、「がっき」では [ i ] に引きずられ
て軟口蓋よりも前よりの硬口蓋が調音点となります。「いっつう」では歯と舌先で
閉鎖が行われ、「きって」「まっち」では歯茎と前舌で閉鎖が行われます。そして、
「らっぱ」では両唇で行われます。

無声両唇破裂(閉鎖)音 [ p ] があとに続く「らっぱ」の場合は、教師の唇の動きを
学習者に見せ、学習者がこれを鼻音 [ m ] にしないように注意していれば、 容易に
習得できるでしょう。しかし、何らかの理由で両唇で閉鎖を行わずに単に1拍分呼
気を止めたものが「らっぱ」の促音であると学習者が誤解した場合にはどうなるの
でしょうか?

 例:
らっぱ rappa

「らっぱ」の2拍目でも両唇を閉じず、両唇は1拍目の母音 [ a ] を発した形を保った
まま1拍分呼気を止めます。続いて、3拍目で両唇を閉鎖した後、閉鎖を解いて[ a ]
を発音します。これをやってみると非常に難しいことがわかると思います。特に、
早口で発音してみると、両唇の閉鎖がない状態で2拍目において呼気を止めるという
のはかなり困難な作業であることがわかります。

いずれにせよ、かなり意識して2拍目の呼気を止めるようにしないと、1拍目の [ a ]
の音が2拍目までかかってしまい、「らーぱ」と発音しているように聞こえる恐れ
があり、また、2拍目の呼気を止めただけでは「らぱ」と2拍で(ゆっくり)発音
しているようにも聞こえかねません。これは肺と横隔膜で呼気を止めただけでは、
促音拍にあるべき緊張度が不足して弛緩した発音となるために起こると考えられます。
また、呼気を止めるのを声門閉鎖または口蓋と奥舌とによる閉鎖で行おうとすると、
この場合の促音としては非常に不自然な音となります。やはり、「らっぱ」の場合は
両唇閉鎖という方法で促音拍を実現する必要があるのです。

無声両唇閉鎖音(破裂音) [ p ] のケースだけをとりあげましたが、他の無声閉鎖音
(破裂音)と無声破擦音の場合も、閉鎖してから閉鎖を解くということに留意しつつ
1拍分の長さを保つということをしないと、日本語の促音を正しく発音できないと
いうことになるかと思います。

● 促音拍が有音となる場合

これに対して、「ざっし」のように摩擦音が続く促音拍では、後続の子音に応じた
摩擦音が発音されています(「後続の子音を伸ばして発音する」と説明する人も
います)。促音拍は1拍分の長さを持ってはいるが呼気は止まっていません。つまり、
そこでは後続の無声子音の口の構えとなっているのですが、呼気の流れはせき止め
られないために音が出るわけです。この場合も、促音拍の緊張を高めて弛緩した発音
にならないようにし、その長さが不足しないように留意する必要があります。

まっさお massao  ざっし zassi  いっしょ issyo  マッハ mahha

なお、「あっはっは」(笑い声)などは声門閉鎖を繰り返して発する声だと言われて
いるので、呼気が一時的に止まっているはずです。

● 促音拍の長さを保つための練習方法

ところで、促音拍で1拍分の長さを保つための方法ですが、1)促音拍の部分で五指
で何かをつかむような動作をしつつ手を少しひいて次の拍で元に戻す、2)促音拍の
部分で物を投げ上げて、次の拍でそれを受ける、3)促音拍の部分で伸び上がる動作
(手と腕をぶりっ子がやるように体の前であわせる動作が伴うこともある)をする、
4)4拍の語の場合は、「パッパパ」「パパッパ」(2拍目および3拍目に促音が
くる)を正しいリズムで発音しながら「パ」の部分で両手の指先をあわせる動作を
する、リズムが身についたら意味のある語句でこれを行う、5)リズム打ちをして、
そのリズムに語句の拍があうように発音する、という方法がよく行われます。

『促音』の場合は、こちらがちゃんと教えた覚えがないのに、自ら習得してしまう
学習者がいる一方で、それが何であるかを知らされていないために聞き取れない・
発音できない学習者もいるのです。


                           98.06.12 NAKAMURA



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